Extended Family
The tradition of camels in Mongolia
毛足が長く、ふわっと軽さがありながら
艶やかな色気のあるベビーキャメル。
その原毛となるラクダと生産者である遊牧民を
たずねてモンゴルのゴビ砂漠へ。
彼らにとってのラクダという存在は、
家畜と飼い主のような単純なものではなく、
守り、受け継いでいかなくてはならない
大切な民族文化のひとつでした。
Creative Direction by kontakt
Photography, Cinematography and Video Editing by Atsuki Ito
Sound Operation by Toru Kemori
Text by Mikiya Matsushita (kontakt)
Translation by Joyce Lam
モンゴルの首都ウランバートルからランドクルーザーに16時間揺られ、たどり着いたのはゴビ砂漠。モンゴル語で「草がまばらに生えた砂漠」がさすように、ラクダの餌となる牧草が豊富で、冬には気温が氷点下、夏は40度を超える寒暖差の大きい地域。農作物が育たない土地柄であったことから、遊牧民たちはラクダの肉やミルクを食料とし、ラクダの毛を売りながら生活を営むようになりました。
ラクダの毛は寒暖差から身を守るために発達し、保温性や放湿性は時にカシミヤさえを上回ります。AURALEEが使うベビーキャメルは、キャメルの中でも1頭につき一度しか採れない、生後半年までの子供の毛を集めたもの。大人の毛よりも繊維が細く、柔らかい肌触りの稀少な原毛は、生地になった時にも軽くてあたたかいのが特徴です。
デザイナーの岩井はベビーキャメルについて、「実用的な部分だけではなく、毛足が長くて柔らかいのに艶とハリがある。他の獣毛には出せない素材としての色気があるんです。こうしてモンゴルに来るのは、生産者と顔を合わせて話をすることで、その特別さを身を持って感じ、より良いものづくりに活かすため。彼らと信頼関係を築き、数の限られた原毛をこれからも分けてもらえるようお願いするためです」と話します。
ゴビ砂漠に近い人口100人程度の小さな村に定住しながら、遊牧民たちと協力してラクダを育てる元村長のエルデネ・べレグさん。この地域では誰よりもラクダに詳しい彼はチーズや馬乳酒、伝統的な現地の挨拶である嗅ぎ煙草でわたしたちを迎え入れ、話を聞かせてくれました。
「冬のラクダに乗ったことありますか?こぶが暖かくてまるでストーブに当たってるみたいなんです」
「わたしたちにとっての豊かさは、家族と自分が健康でいられることです。ラクダはとても優しく臆病な動物。わたしたちが彼らに対して、優しく接していればラクダもわたしたちに多くのものを与えてくれます。栄養満点のミルクや肉、そしてあたたかく丈夫な毛。ラクダに愛を持って接して、たくさんの恩恵を受け取ることで、わたしたちは今日も豊かな生活を送ることができるのです」
旅の最中、現地で出会った人たちが、牧草地に座り込み、目を合わせて話をする光景に何度も出会いました。彼らは会社の上司と部下であったり、取引相手だったりと、いわば仕事での間柄。それにも関わらず、リラックスしながら話に没頭するさまはまるで家族のよう。そこには作り手や消費者といった立場の差はなく、フラットな人と人の繋がりだけがあります。それはAURALEEが目指すコミュニティのあり方、その答えのひとつになり得る象徴的な光景でした。
愛を持ってラクダと向き合い、親密な人と人の繋がりを介して、その宝物のような繊維のバトンを繋ぐ。わたしたちは、ベビーキャメルの原毛を「分け与えて」もらっています。話の最後、エルデネさんは、あらためてラクダとの関係性、彼らが代々受け継いできた想いについて語りました。